核をテーマに据えた児童書「風が吹くとき」のあらすじからメッセージを読み解く

核や戦争をテーマにした作品は世の中に数多くあります。その中でも世界中に知られている衝撃的な作品が【風が吹くとき】という有名な児童書です。イギリスの作家であるレイモンド・ブリッグズが1982年に発表した漫画で、後にアニメーション映画化もされました。核戦争に巻き込まれてしまう1組の老夫婦を主人公にした作品です。1987年には日本でも公開されました。

日本で最も有名な核を題材にした作品といえば【はだしのゲン】があります。核爆弾によって崩壊した広島と、力強く生き抜いていくゲンと人々の姿を描いた有名な作品です。ストレートに直球で戦争の悲劇を描いた【はだしのゲン】が動であるならば、【風が吹くとき】は、おだやかな日常にじわじわと迫り来る核の恐怖を描く、いわば静の作品と言えるでしょう。

 

「風が吹くとき」のあらすじ

老夫婦のジムとヒルダは、イギリスの片田舎で隠居生活を送っていました。仕事は引退して穏やかな日々の中でも、世界情勢については思案をめぐらせていた夫と、政治にも戦争にも興味はないが長年しっかりと家を守ってきた妻の2人。静かで穏やかな二人の暮らしは、裕福ではありませんでしたが、とても幸せなものでした。

しかし、世界情勢は日に日に悪化の一途を辿っていき、そしてついに戦争が始まるとのニュースが流れてくるようになりました。夫のジムは、とりあえず政府が発行したパンフレットに従って、保存食や核シェルターを作り準備を進めていました。

ところが妻のヒルダはそんなことはお構いなし。まるで人ごとのように今までの生活を続けていました。ジムが放射能対策のために窓をペンキで白く塗っているとき、カーテンにペンキを付けてしまい、それを見たヒルダに怒られてしまったこともありました。またあるときには、核爆弾の熱戦対策に大きな紙袋を被る夫を見て、まるでハロウィンの仮想見たいと喜ぶ妻の姿がありました。

あまりにも日常的で、和やかな生活は、二人に危機感を抱かせることはありませんでした。その姿はまるで、ちょっとした台風にでも備えているかのようでした。自分たちが本気で死と隣り合わせであるとは思っていなく、ただいざというときのために万全の体制を整えているだけでした。

二人は、核爆弾の威力がどういうものか分かっていませんでした。そして核爆弾なんて降ってくるはずがない、気づけば戦争も終わっていると、どこか楽天的に考えていたのでした。ただ政府が発行したパンフレットに従い、これで大丈夫、安心だと思い込んでいたのです。

しかし無情にも、その時はやってきてしまいました。「今から3分以内に核ミサイルが飛来します。」ラジオから聞こえてくる声はそう告げました。ジムはヒルダを抱きかかえ、すぐに核シェルターに避難しました。ミサイルが直撃しなければ大丈夫と思い込んでいるヒルダは、つけっぱなしのオーブンの心配をしています。そしていよいよ核爆弾が着弾し、一瞬で町は消し飛び崩壊しました。

二人は命からがらどうにか生き延びたものの、残留した放射能によって徐々に体を蝕まれて行きました。

 

「風が吹くとき」に登場するパンフレットは実在する

ジムとヒルダが信じ切っていた政府発行のパンフレットですが、1980年代までイギリスに実在していました。自作核シェルターや核爆弾回避の手段は政府公認のものだったのですが、核爆弾の直撃を回避したところで、その後の放射能汚染についての対策は何も取られず、これはあまりにもひどい核への認識から来ているものと推測されます。こういったパンフレットの類は、風が吹くときの原作が発刊されたのち、速やかに回収されていきました。

私たちは、広島・長崎での経験を子供のときから教育され、戦争の悲惨さや、核兵器の恐ろしさは知識として身に着けてますが、外国での核兵器の認識はかなり甘く、曖昧なものであるということがよくわかります。

 

「風が吹くとき」から読み解くメッセージ

本作品は、視聴する人によっていろいろな捉え方がされています。それだけ見どころが多い作品という風に言い換えることもできますが、公開当時、広島原爆の体験者の方からは、「核の恐ろしさや悲惨さはこんなものではない」という意見が寄せらました。ジムとヒルダの所行についてどう考えるかも個人差が大きく、パンフレットを妄信し愚かしいと感じる人もいれば、一方で政府の指示にきちんと従える良識のある大人だと考える人もいます。慎ましく、国民の義務と責任を果たした二人は報われるべきだと言う人もいれば、戦争の恐ろしさについて他人事で済まそうとする感覚に問題がると批判する人もいます。また、最後まで仲睦まじい1組の夫婦のラブストーリー捉える人もいるのです。いずれにしても、こんなにもたくさんの意見が上がってくるほど、多くの人に知られ魅力的な作品であるのです。

 

本作には、核戦争そのものや、その認識不足に対しての痛烈な皮肉と批判が込められています。

前半は穏やかで平和な日常を描いており、大きくて真っ青な空、たくさんの緑があふれる田舎道や、そこに住む幸せそうな住人達。明るく輝く暖かい世界がそこにはあります。そして後半、これの世界は一気に吹き飛ばされます。核爆弾に破壊され、放射能に侵されそして死んでいくのです。

この前後半の対比に子供はもちろん大人も、一読すれば戦争に対して無知でいてはダメなこと、生き延びるためには自分で考え行動することが大切であることを学べるでしょう。